【判例あり】引っ越しの時、敷金は戻ってくるのか?
引っ越しの時、今の部屋の敷金は戻ってくるの?
これから引っ越しする上で、敷金が戻ってくるのか心配になっていませんか?
敷金が全額戻ってくれば、次の引っ越し費用に回せるので嬉しいですよね。
- そもそも敷金って何のためにあるの?
- 一部が返ってくるの?全額返ってくるの?
など色んな疑問があるかと思います。
この記事では敷金の仕組みや知らないと損する敷金返還のコツを解説します。
まず敷金とは?
敷金は、賃借人が賃料を滞納したり、賃借人が不注意等によって賃借物に対して損傷・破
損を与えた場合等の損害を担保するために、賃借人から賃貸人に対して預け入れるもので
す。
敷金とは
「あなたが家賃を滞納したり、家を破損してしまった時に使うために初めにお金を預かっておきますよ」
というものです。
大家さんとしては家賃が払えないほど支払能力のない人や家を破損してそのまま逃げてしまうような人が入居しているとリスクが大きいですよね。
そのリスクを少しでも回避するためにあるのが敷金です。
まず敷金を取り戻すためにはこの敷金の役割を知っておきましょう。
敷金トラブルの元、原状回復費とは?
敷金は原状回復にかかった費用を差し引いた分が入居者に返還されます。
この原状回復費が敷金返還のトラブルの大きな原因です。
原状回復費がトラブルになる原因は「賃貸人(大家さん)負担」のものと「賃借人(あなた)負担」のものがあるからです。
賃貸人(大家さん)負担の原状回復費
床(畳・フローリング・カーペットなど)
- 畳の裏返し、表替え(特に破損してないが、次の入居者確保のために行うもの)
- フローリングのワックスがけ
- 家具の設置による床、カーペットのへこみ、設置跡 を与えた場合)
- 畳の変色、フローリングの色落ち(日照、建物構造欠陥による雨漏りなどで発生したもの)
壁、天井(クロスなど)
- テレビ、冷蔵庫等の後部壁面の黒ずみ(いわゆる電気ヤケ)
- 壁に貼ったポスターや絵画の跡
- 壁等の画鋲、ピン等の穴(下地ボードの張替えは不要な程度のもの)
- エアコン(賃借人所有)設置による壁のビス穴、跡
- クロスの変色(日照などの自然現象によるもの)
建具等、襖、柱等
- 網戸の張替え(特に破損はしてないが、次の入居者確保のために行うもの)
- 地震で破損したガラス
- 網入りガラスの亀裂(構造により自然に発生したもの)
設備、その他
- 専門業者による全体のハウスクリーニング(賃借人が通常の清掃を実施している場合)
- エアコンの内部洗浄(喫煙等の臭いなどが付着していない場合)
- 消毒(台所・トイレ)
- 浴槽、風呂 釜等の取替え(破損等はしていないが、次 毀損の入居者確保のために行うもの)
- 鍵の取替え(破損、鍵紛失のない場合)
- 設備機器の故障、使用不能(機器の寿命によるもの)
賃借人(あなた)負担の原状回復費
床(畳・フローリング・カーペットなど)
- カーペットに飲み物等をこぼしたことによるシミ、カビ(こ
ぼした後の手入れ不足等の場合) - 冷蔵庫下のサビ跡(サビを放置し、床に汚損等の損害
- 引越作業等で生じた引っかきキズ
- フローリングの色落ち(賃借人の不注意で雨が吹き込んだことなどによるもの)
壁、天井(クロスなど)
- 賃借人が日常の清掃を怠ったための台所の油汚れ(使用後の手入れが悪く、ススや油が付着している場合
- 賃借人が結露を放置したことで拡大したカビ、シミ(賃貸人に通知もせず、かつ、拭き取るなどの手入れを怠り、壁等を腐食させた場合)
- クーラーから水漏れし、賃借人が放置したため壁が腐食
- タバコのヤニ、臭い(喫煙等によりクロス等が変色したり、臭いが付着している場合)
- 壁等のくぎ穴、ネジ穴(重量物をかけるためにあけたもので、下地ボードの張替えが必要な程度のもの)
- 賃借人が天井に直接つけた照明器具の跡
- 落書き等の故意による毀損
建具等、襖、柱等
- 飼育ペットによる柱等のキズ、臭い(ペットによる柱、クロス等にキズが付いたり、臭いが付着している場合)
- 落書き等の故意による毀損
設備、その他
- ガスコンロ置き場、換気扇等の油汚れ、すす(賃借人が清掃・手入れを怠った結果汚損が生じた場合)
- 風呂、トイレ、洗面台の水垢 、カビ等(賃借人が清掃・手入れを怠った結果汚損が生じた場合)
- 日常の不適切な手入れもしくは用法違反による設備の毀損
- 鍵の紛失又は破損による取替え
- 戸建賃貸住宅の庭に生い茂った雑草
一番の争点はハウスクリーニング代
「ハウスクリーニング代は引かれて当たり前のもの」
と思っていませんか?
2015年3月の法改正により敷金の返還義務
2015年3月の法改正により、敷金の返還が義務化されました。
改正後は経年変化や通常の生活を送っている上で出る汚れやキズは敷金より差し引いてはいけないとなっています。
あなたが破損等なく部屋を使って、出る時に自分で清掃すれば敷金は全額返ってくるものとなります。
ただし特約による例外もある
賃貸契約時に特約でハウスクリーニングを負担と記載されている場合はハウスクリーニング費用も負担となります。
しかし、その場合でも全額負担とはならないケースがあるので納得いかない場合や金額が明らかにおかしい場合は確認しましょう。
ハウスクリーニング代が返還された、減額された判例
過去に実際にクリーニング代が争点となり、裁判となった上でクリーニング代が返還・減額されたケースがあるので確認しておきましょう。
クリーニング代を賃借人による負担が認められなかった事例
1.事案の概要
賃借人Yは、平成9年11月、賃貸人Xと賃貸借契約を締結し、敷金として16万5000円を差し入れた。
賃借人Yは、平成11年5月、賃貸人Xと本件契約を合意解除し、本物件を賃貸人Xに明け渡したが、賃貸人Xは賃借人Yに対し、原状回復費用として、
- 畳修理代5万7330円
- 襖張替え代3万3600円
- フロア張替え代7万6062円
- 室内クリーニング代3万6750円
- 水道未払費用1万4115円
の合計21万7857円の支払を求め、敷金との差額5万2857円を請求し提訴した。
これに対し賃借人Yは、1、2及び5の合計10万5045円の支払は認めるが、その他の費用負担については、本件契約書の費用負担の特約に規定されておらず、説明も受けていない。
本件貸室の使用は正常でかつ善管注意をもってなし、通常の使用によって生ずる損耗、汚損を超えるものではないから、支払義務はないと主張した。
2.判決の要旨
これに対して裁判所は、
(1)本件契約の賃借人の費用負担特約条項には、フロアの張替え及びクリーニングの費用負担の規定はない。
(2)賃貸物件の通常の使用による損耗、汚損を賃借人の負担とすることは、賃借人に対し、法律上、社会通念上当然発生する義務とは趣を異にする新たな義務を負担させるというべきであり、これを負担させるためには、特に、賃借人が義務を認識し又は認識し得べくして義務の負担の意思表示をしたことが必要であるが、本件においてはこれを認めるに足りる証拠はない。
(3)本件貸室において、賃借人Yが、その居住期間中に通常の使用方法によらず生じさせた損耗、汚損があったと認めるに足りる証拠はない。したがって、賃借人Yには、フロアの張替え及び室内クリーニング費用の支払義務はない。
(4)以上から、賃借人Yの主張を全面的に認めた。
3.結果
【敷金】 16万5000円
【返還】 5万9955円
賃借人の過失による支払いは認められていますが、フロアとクリーニング代は払わなくていいという判決になりました。
未払いや過失が無ければ敷金が全額戻っているケースですね!
賃借人がクリーニング代を負担するとの特約を有効と認めた事例(減額された例)
1.事案の概要
賃貸人Yは、賃借人Xに対し平成9年9月27日、本件建物(木造モルタル2階建て一戸建住宅)を賃貸し、賃借人Xは賃貸人Yに対し、同日、敷金27万円を交付した。
その後平成17年10月6日、本件賃貸借契約は、賃料月額13万円、期間2年(平成17年10月1日から平成19年9月30日まで)、明け渡しをするときは、専門業者のハウスクリーニング代を負担するとの特約(本件特約)を内容として更新された。
本件賃貸借契約の終了にあたり、賃借人Xは、賃貸借契約は平成19年4月30日に終了し明け渡しを行ったとして、賃貸人Yに対して敷金27万円の返還を求めた。
賃貸人Yは、本件特約に基づくクリーニング代、賃借人Xの通常の使用を超える損耗の原状回復のための内装工事費、内装工事終了時までの2か月分の賃料等が敷金から控除されると争った。
賃借人Xが敷金の支払を求める支払督促を申し立てたのに対し、賃貸人Yが異議を申し立てたため訴訟に移行し、原審が賃貸人Yに対して5万372円の支払い等を命じたところ、双方が控訴した。
2.判決の要旨
これに対して裁判所は、
(1)最高裁判所平成17年12月16日(事例24を参照)判決を引いた上で、
(2)ハウスクリーニング費用を賃借人の負担とする本件特約は、本件賃貸借契約の更新の際に作成された契約書に明記されており、その内容も、賃借人が建物を明け渡すときは、専門業者のハウスクリーニング代を負担する旨が一義的に明らかといえる。したがって、ハウスクリーニング代は、賃借人Xが負担すべきである。
(3)本件特約以外に賃借人の原状回復義務についての特約は存在しないから、賃借人Xは、故意・過失によると認められる通常損耗を超える損耗(特別損耗)についてのみ補修の義務を負う。
(4)和室壁面のタバコのヤニによる汚損でクリーニング等によっても除去できない程度に至っている和室壁面、大きく破れている箇所が認められる和室の障子、トイレの扉やや下方の汚れ及び、和室の畳の内2枚の黄ばみと黒いシミと茶色のシミは、通常損耗を超えたものと認められる。したがって、和室2室のクロスの張替え費用、和室障子の張替え費用、建具ダイノックシート張替え費用、畳2枚の張替え費用は、本件敷金に充当されるべきである。その他の内装工事費は、本件敷金に充当されるべきものとは認められない。
(5)本件における通常損耗を超えた損耗の補修は、通常損耗の補修と同時に行い得るものであるから、平成19年4月30日の賃借人Xの明け渡し時以後、その補修期間に相当する賃料相当損害金を敷金に充当すべき法的根拠はない。
(6)以上から、敷金のうちクリーニング代6万3000円と内装工事費8万430円を差し引いた12万6570円の支払いを賃貸人Yに対して命じた。
3.結果
【敷金】 27万円
【返還】 12万6570円
特約があったためハウスクリーニングの負担は認められました。
しかし、工事の期間の家賃や通常消耗の部分は認められず、一部敷金が返還される結果に。
工事期間の家賃も負担しろってひどい話ですね。。。
敷金が返還のまとめ
1.まずは敷金返還の旨を伝えよう
たまに敷金返還の話がないままの大家さんがいます。
あわよくば敷金を返さず自分のものにしてしまおうという悪徳大家ですね。
そういった場合は必ずこちらから敷金返還の旨を伝えましょう。
私も実際に敷金返還の話をしない大家さんに当たったことがありますが、電話で「敷金を返してください」と伝えれば返還されました。
退居後1ヶ月以上経っても振り込まれない場合も大家さんや管理会社に連絡するようにしましょう。
2.原状回復費に納得がいかない場合は交渉
立ち合いの際に特に故意過失による傷が無く、ちゃんと清掃もしてある状態であるにも関わらず、原状回復費としてクリーニング代が引かれている場合が多々あります。
納得がいかない場合はまず電話で交渉しましょう。
一般の人は知らないと思って当たり前のようにクリーニング代を引く大家はたくさんいます。
電話の交渉だけでも全額戻ってくるケースがあるのでまずは電話で交渉しましょう。
電話で無理なら内容証明郵便や少額訴訟などの方法もあります。
3.まとめ
なるべく敷金を返還してもらいたいなら、故意過失による汚れや傷を防ぎつつ、退居するときは綺麗に掃除をするようにしましょう!
傷が無くても汚いままの場合はクリーニング代負担の要因となるの要注意です。