【判例あり】鍵交換の費用を負担するのは貸主か借主か?
鍵交換費用は誰が負担すべき?
新しい部屋に引っ越す際に初期費用として含まれている「鍵交換費用」
- これって本当に入居者が負担しないといけないの?
- 本当は大家さん負担じゃないの?
- 退居する際に鍵交換費用されたけどおかしいのでは?
などの疑問に答えていきます!
具体的に決められていない鍵の費用負担者
実は法律で鍵交換の費用は大家と入居者どちらが負担とは決められていません。
しかし、国土交通省発行の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」には鍵の取替えについて
入居者の入れ替わりによる物件管理上の問題であり、賃貸人の負担とすることが妥当と考えられる。
と記載されています。
ですので、交渉次第では大家さんに負担してもらうことも可能です。
特に空室期間の長い部屋であれば、大家さんもいち早く埋めたいので、鍵交換費用の数万円くらいならすぐに負担してくれるでしょう。
入居時に鍵交換をしないという選択肢も
鍵交換が自己負担でどうしても初期費用を抑えたい場合は「鍵交換をしない」という選択肢もあります。
実際に私は社会人になって初めて引越しした時、お金がなかったので「鍵交換をしない」という選択肢を選びました。
しかし、前の住居者が合鍵を持っている可能性もあるので防犯上オススメはしません。
お金がなくてどうしても・・・という場合のみにしておきましょう。
また入居時にできなくても後日、大家さんや管理会社にお願いして鍵交換を依頼することも可能です。
退去時の鍵交換費用の請求について
「退去時に鍵交換費用を請求された」
「敷金から鍵交換費用を引かれてた」
このようなケースもあるのではないでしょうか?
鍵の紛失や破損などが無い場合は基本的に鍵交換は入居者に負担義務はありません。
もし敷金から引かれてたり、請求されて支払った場合は返して貰いましょう。
ただし例外もあります。
契約時の特約で「退去時に鍵交換費用を負担」という契約を結んでいたら、費用負担の義務が出てきます。
実際に鍵交換費用を負担しなくてよくなった判例と鍵交換費用を負担することになった判例があるので確認しておきましょう。
退居時に鍵交換費用を負担しなくてよくなった判例
1.事案の概要(原告:賃借人X 被告:賃貸人Y)
賃借人Xと賃貸人Yらは、平成16年3月28日本件建物につき、期間1年、賃料月額金7万8000円で賃貸借契約を締結し、賃借人Xは賃貸人Yらに対し、保証金(敷金)25万円を交付した。本件賃貸借契約には敷引金25万円の記載があった。
本件賃貸借契約は、賃借人Xの申し入れにより、平成16年12月13日をもって中途解約された。
賃借人Xは、賃貸人Yらには債務不履行があるとして、敷金25万円の返還を求めて訴えを提起した。これに対し、賃貸人Yらは、1か月分の解約予告金が未払いであること、本件建物には賃借人Xの過失によるカビ・異臭が発生しており、その損害金があるとして、賃借人Xに対して反訴を提起した。
2.判決の要旨
これに対して裁判所は、
- 本件敷引特約は、民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定であり、消費者の義務を加重するものである。また、本件敷引特約は賃貸人の有利な地位に基づき、一方的に賃借人に不利な特約として締結されたものであり、民法1条2項に規定する基本原則に反しており、消費者の利益を一方的に害するものであることは明らかである。よって、本件敷引特約は消費者契約法10条の要件を充たしており、無効である。
- 本件建物のカビは、結露が主たる原因である。本件建物の設備を検討すると、本件建物の結露の発生は建物の構造上の問題と認められる。
- 結露の発生が建物の構造上の問題と認められた場合、結露の発生に気付いていた賃借人Xにカビが発生するについて過失があったかについては、本件では、目に見えるところにはカビが残っていないため、賃借人Xは、結露に気付いたときにはその都度拭いていたと認められる。したがって、賃借人Xは、共働き家庭の日常生活を送っていたのであり、カビの発生につき賃借人Xに過失があったとは認められない。
- 本件建物のカビの発生は建物の構造上の問題であり、そこに住む者にとっては、健康上、財産上の深刻な問題であり、賃貸人は最善の方法を尽くすべきである。賃貸人は、賃借人が快適な生活を送れるように賃貸した建物を維持すべき義務があると考えられるので、それが履行されない以上、賃貸人の債務不履行と解すべきである。
- 鍵交換代は、賃借人Xには負担義務のない費用である。
- 以上から、賃借人Xが負担すべき費用はないとして、賃貸人Yに対して敷金の返還を命じ
た。
3.結果
敷金25万円 全額返金
特に特約もなかったため鍵交換費用は入居者に負担義務が無いという結果になっています。
退居時に鍵交換費用を負担することになった判例
1.事案の概要(原告:賃借人X 被告:賃貸人Y)
賃貸人Yは、賃借人Xに対して平成19年5月27日、本件貸室を契約期間2年、賃料月額5万6000円(他に共益費2000円)、敷金5万6000円とし、賃借人Xは賃貸人Yに同日敷金を支払うと共に、本件貸室の鍵交換費用として1万2600円を支払った。
本件賃貸借契約は平成20年2月17日に終了し、賃借人Xは賃貸人Yに対して本件貸室を明け渡したが、賃貸人Yがハウスクリーニング費用2万6250円を負担する特約(清掃費用負担特約)に基づいて敷金から2万6250円を控除し、また、賃貸人Yが入居時に貸室の鍵交換費用1万2600円を負担する旨の特約(鍵交換費用負担特約)に基づいて1万2600円を取得したことから、賃借人Xはこの2つの特約は有効に成立していないか、成立していたとしても消費者契約法10条により無効である、
仮に無効でないとしても消費者契約法4条2項により取り消されたと主張してこれらの返還を求めて提訴した。
2.判決の要旨
これに対して裁判所は、
- 清掃費用負担特約は、合意されていないとして2万6250円の敷金の返還を認める。
- 鍵交換費用負担特約については、成立するとして請求を棄却した。
これに対して賃貸人Yが控訴し、これに対して裁判所は、
- 清掃費用負担特約については、契約書等には賃借人が契約終了時にハウスクリーニング費用2万5000円(消費税別)を賃貸人に支払う旨の記載がいずれにも存在すること、賃貸住宅紛争防止条例に基づく説明書には費用負担の一般原則の説明の後に、「例外としての特約について」と題して、ハウスクリーニング費用として2万5000円(消費税別)を賃借人が支払うことが説明されていること、仲介業者が口頭で説明したことは認められること等からすれば、料金2万5000円(消費税別)程度の専門業者による清掃を行うことが明らかであるから、契約終了時に本件貸室の汚損の有無及び程度を問わず、賃貸人Yが専門業者による清掃を実施し、賃借人Xがその費用として2万5000円(消費税別)を負担する旨の特約は明確に合意されているものということができ、特約の合意は成立している。
当該特約は賃借人にとって不利益な面があることは否定できないが、特約は明確に合意されていること、賃借人にとって退去時に通常の清掃を免れることができる面もあること、その金額も賃料月額5万6000円の半額以下であること、本件貸室の専門業者による清掃費用として相応な範囲のものであることからすれば当該特約が賃借人の利益を一方的に害するとまで言うことはできないので、当該特約は消費者契約法10条違反であるとはいえない。
同様に、賃貸人の代理人である業者が賃貸住宅紛争防止条例に基づく説明の際に当該特約について「清掃費用は賃貸人が本来負担するものであるが、賃借人に負担をお願いするために特約として記載している」と説明したことが認められることから、消費者契約法 4条 2 項違反の行為もないので、クリーニング費用についての賃借人Xの請求は認められない。 - 鍵交換費用負担特約については、宣伝用チラシ、重要事項説明書に記載されていること、契約締結時に仲介業者が口頭で説明していること、賃借人Xは鍵交換費用を含めて契約金を支払っていることからすれば鍵交換費用を負担する旨の特約が明確に合意されているものということができ、要素の錯誤があったと認めるに足りる証拠もない。
そして、鍵交換費用負担特約は特約そのものが明確に合意されていること、鍵を交換することは前借主の鍵を利用した侵入の防止ができる等賃借人Xの防犯に資するものであること、鍵交換費用の金額も1万2600円であって相応の範囲のものであることからすれば、賃借人にとって一方的に不利益なものであるということはできないから当該特約は消費者契約法10条違反ではない。
また鍵交換費用について、賃貸人が本件ガイドラインに沿った内容と説明したと認めるに足りる証拠もなく、消費者契約法4条2項違反でもない。 - 以上から、原判決における賃貸人Y敗訴部分を取り消した上で賃借人Xの請求を棄却した。
3.結果
【敷金】5万6000円
【返還】1万7750円
鍵交換費用は入居者が負担となった判例です。
大きなポイントは特約で鍵交換費用の負担の明記があった点ですね。
必ず契約時に確認しておきましょう。